2023年11月01日

行事の心得

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0~2歳

3~5歳

北林久仁子先生の紹介画像

 12月に入り、街でクリスマスや年末の雰囲気を感じるようになると、自然と子ども時代の様々な楽しい記憶が浮かんできて、忙しい中でもワクワクします。保育園、こども園でも楽しい行事が目白押しです。この時期に発表会をする園もあるかと思います。そこで、今回は行事について、書いてみたいと思います。

 運動会や発表会などの行事では、個人差はありますが、年長児になると、お家の人に良いところを見てもらおうとか、お話遊びを喜んでもらおうと、見てくださるお家の人を意識して頑張ることができるようになってきます。
 一方3歳、4歳児は見てもらう喜びもありつつ、恥ずかしかったり、まだ、意味が分からなかったりして、ふざけることで恥ずかしさをごまかそうとしたり、泣いてその場を逃げようとしたりします。特に4歳児クラスは要注意。笑いに持ち込めば、恥ずかしさから逃れられると、わざと爆笑を誘うようなふざけ方をすることもあります。子どもたちは、笑い声を聞くと緊張が一気に崩れて、他の子どももふざけ始めてしまいます。
 なので、そういう場面では、声を出して笑わないでくださいね。ふざけ切ってしまった結果、辛いのは実は子どもたち。本当はちゃんとしたい気持ちもあるので「できなかった」と思ってしまいます。また、お家の人に叱られたり、お家の人のがっかりした表情を見たりすると、平気そうに見えて実は落ち込んでいたりもします。

 もう少し小さな子どもたちは、そもそも行事がまだよくわかっていません。なぜ、お家の人が観客席にいるのに、自分のそばに来てくれないのかと、すごく不安になる子どももいます。一方、サービス精神が豊かな子どもは、笑顔を振りまいて、堂々としていたりもします。どちらが優れているではなく、それも個性。またその日のコンディションもあります。小さなクラスの保護者さんは目立たないように隠れて見てくださいね、とお願いされることも多いかと思います。できるだけ子どもたちの普段通りの可愛い姿をお家の人に見てもらいたいというお願いです。
 また、小さな年齢では、子どもたちが本当に楽しめるように、見せる発表会をやめて、親子で一緒に楽しむ集いを行うところも増えてきています。

 私が保育所長だった当時、行事当日に、保護者の皆さんの前でお話をしてきましたが、たくさんの人の真剣な目が一気に自分に集まっていることの怖さ。これを子どもたちも経験しているのです。
なので、私は行事の挨拶の度に、毎回「今日は、お家の方が一番頑張る日にしてください」とお願いしてきました。行事当日は子どもたちが頑張って、可愛く立派なうちの子の姿を見て、保護者の方が喜ぶ日ではありません。誰よりも保護者の方が頑張るべき日なのです。どう頑張るかと言うと、何を見ても笑顔。どの子どもと目があっても笑顔です。多少、自分の子どもが頑張っていなくても、ふざけているように見えても、緊張して棒立ちになっていても、よそのお子さんが明らかにふざけていても、道具係の先生がミスをしても、いい場面で担任の先生がピアノをミスしても笑顔です。

 そもそも、何のために行事をするのか?いつも、皆さんに幸せをくれる大切な子どもたちが、自分たちはお家の人を含む多くの大人の人に大切にされている、自分たちの存在が皆さんを幸せにしている、それを実感し、心に刻むためにするのです。その場のみんなが笑顔で、その日頑張れた、頑張れなかったという小さなことを越えて、園の子どもたちを全部の大人が大切にしていることを確認し合うための場です。5歳から6歳の発表会の出来不出来で人生が変わる子どもはいません。けれど、その時間に大人が込めた温かな心は、その子どもたちの未来を照らすと思います。

 お父さん、お母さんに見習っていただきたいのは、おじいちゃん、おばあちゃん。発表会や運動会の当日とは別日に祖父母の日を設定することがよくあります。その日の子どもたちは本当にとても幸せそうなのです。というのは、おじいちゃん、おばあちゃんたちは、自分の孫だけでなく、どの子を見ても「かわいいねえ」「頑張ってるねえ」と常に笑顔。温かい拍手。感動して泣いている人も。その場では、「頑張らなくてはいけない」という緊張から解き放たれて、子どもたち、本当にのびのびしています。
 どうしてもお父さん、お母さんは、我が子のことになると真剣になりすぎます。それは自然なことで、ありがたいことではあるのですが、行事に参加されるとき、少し、子どもの心に思いをはせていただいて、保護者こそが笑顔で頑張ろう、と思っていただければ嬉しいなと思います。そして、終わった後は、「素敵だったよ」としっかりと褒めて抱きしめてあげてくださいね。


※旧子育て応援サイト 2022年12月9日掲載分

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北林 久仁子 先生

(保育士・こども家庭局担当部長)

神戸市公立保育所保育士、主任、所長を経て、2022年度より、こども家庭局指導研修担当部長として、保育所・幼稚園・認定こども園などで乳幼児保育・教育に関わる職員の研修の企画運営等に携わる。これまでの保育現場での様々な出会いや今の仕事で気づいたことなどについて、コラムを執筆予定。

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