2023年11月01日
豊かな遊びの中で育つ力
私が長年働いた保育所では、この季節、盛んに外遊びを楽しみ、散歩にも大いに出かけます。ゴールデンウィーク明けには登園して家族と離れるのが少し悲しくなる子どももいますが、新しく入所した4月とは違い、園の楽しさも分かってきているので、時間をかけずに再び園生活を楽しみ始めます。そして初夏から暑い夏、いよいよ水遊びも始まります。
昨年の夏に行ったZoomでの公開保育研修で登場したある園の2歳児クラスの男の子の姿を紹介します。その日の遊びは洗濯ごっこでした。洗ったハンカチを洗濯ロープに干すのですが、彼は、洗濯ばさみの扱いが上手で、ぐちゃぐちゃのままのハンカチをロープに上手に留めていました。そして、ふと周りを見回して、また、自分の干したものを見て、少し考えている様子。他のハンカチは、先生に手伝ってもらったのか、きれいにまっすぐに干してあるものがほとんどで、自分の干し方と違うことに気付いたようです。「先生に助けてもらうかな、干しなおすかな」と予想しましたが、彼は、おもむろにロープを両手で持って力いっぱい振り始めました。思いがけない動きに、画面越しの私たちは「すごい!」と大爆笑しました。何回か振っていると、振動で少しまっすぐになってきました。彼は、再び周りを見回して、自分の物と見比べて、少し不本意そうな、しかし、満足もしたような表情で、そのままその場から離れていきました。
自分で状況に気付いて、何とかしようと方法を思いつき、やってみて、ある程度妥協もして終わらせられる。生まれてからまだ3年ほどしかたっていないのに、すごいと思いませんか。こうした瞬間に子どもたちの中に豊かに育っている力の大きさにハッとされられます。そして「これはこうだよ」と先取りして教えることを少し待って、豊かな遊びの中で、自分で気づく、自分でやってみることの大切さを思います。
乳幼児の保育は正解のない営みだと思います。このように育ってほしいという願いはあっても、その方法は様々。だから、子どもたちの姿がどのようであるか、子どもたちが今、幸せであるかにこだわって、私たちは公開保育などの研修での学びを続けています。
すでに園とのつながりを持たれている保護者の皆さんには、園は力強いパートナーだと安心していただきたいと思います。また、多くの園は、在宅で子育てをされている方のお手伝いもしたいと思っています。コロナが落ち着いてきたら園庭開放や体験保育も再開し始めます。ぜひ、のぞいてみてくださいね。
※旧子育て応援サイト 2022年5月27日掲載分
北林 久仁子 先生
(保育士・こども家庭局担当部長)
神戸市公立保育所保育士、主任、所長を経て、2022年度より、こども家庭局指導研修担当部長として、保育所・幼稚園・認定こども園などで乳幼児保育・教育に関わる職員の研修の企画運営等に携わる。これまでの保育現場での様々な出会いや今の仕事で気づいたことなどについて、コラムを執筆予定。