2023年11月01日

魔法の言葉

相談する

0~2歳

3~5歳

井窪薫先生の紹介画像

 アメリカに引っ越して間もない頃、家から遠出をしようにもバスの乗り方も分からなかったので、よく近くの公園に行っていました。そこにはいろんな国のママが集まっていて、話す言葉は英語や中国語、ロシア語、イタリア語といった母国語ではない言葉が飛び交っており、そのせいか、公園は少し居心地が悪く、1歳の長男も空気の違いを感じ、せっかく公園に行ってもずっと泣いてばかりでした。
 そして、私も周りの雰囲気に合わせるかのごとく、英語の単語を使って長男に話したりと、少し背伸びをしていました。なぜかというと、日本語で話しても周りには何をしているのか伝わらないからです。でも当時、きっと子どもは混乱した事でしょう。周りからは今まで聞いたことのない言葉ばかりが聞こえ、ママはなんか顔がこわばっていて、良くわからない言葉を話している。今考えると、それはぐずってもしょうがない状況でしたが、私も必死ゆえ、何が大事なのか見えていなかったのです。

 ある日、英語ではなくスペイン語で、ずっと子どもと話しているママを見ました。そのママは英語が話せないようですが、特に困る様子もなく、子どもと遊び、子どもに母国語で話しかけ楽しそうにしている。その様子を見て気が付きました。子どもに必要なのは、背伸びをして英語を話すことではなく、親しんだ言葉でリラックスできるように話すことだと。別に他のママに分からなくても、大事なことは『言葉は子どもと親をつなぐツール』だと気が付きました。親の微妙な意識改革を察してくれたのか、それ以来、子どもも公園に行くのが好きになりました。今は、周りのいろんな国の言葉を聞いても嫌じゃなさそうです。言葉は、子どもにとって魔法をかけるくらいの意味があります。

 日本と比べて、アメリカには『今どんな気持ちかな?』と子どもの気持ちを言葉で引き出すことを心掛けているママが多いように思います。こちらの図書館のトイレに『沢山子どもに話しかけましょう、その言葉から子どもは言葉を覚えます』と書いてある張り紙がありました。私もそれを意識して、どんな事でも言葉にして話すようにしてみました。親が言葉で伝える事を意識すると、子どもはびっくりするほどのスピードでキャッチします。子どもは親を真似していろんな事をしたりするので、しっかり言葉で伝える事が大事です。小さいから分からない、今はまだ分からないと思わずにいっぱい話しかけてあげましょう。話すのが苦手な場合は、童謡などの歌を取り入れてみてはどうでしょうか?
 また、乳児期を過ぎてからも、親が話す言葉には魔法のような力があります。子どもが不安そうな時には『大丈夫だよ』『大好きだよ』など、言葉を使って魔法をかけてあげてください


※旧子育て応援サイト 2023年10月13日掲載分

井窪薫先生の写真

井窪 薫 先生

(精神科医・4児の母)

精神保健指定医。6歳、3歳、2歳、1歳を子育て中。長女の子育て中に大学院に通い、医学博士、精神科専門医を習得。現在はアメリカで児童精神医学を勉強中。

井窪 薫先生のバックナンバー(2023年度)はこちら

専門家コラムのバックナンバーはこちら