2024年06月14日
【子育てのヒント】叱るってどういうこと? ~叱ることの意味を考える~
はじめまして。神戸市総合療育センターの疋田です。私は神戸市の心理判定員(心理士)として、療育センターやこども家庭センターでお子さんの発達や子育てに関わる仕事をしてきました。今回のコラムでは、これまでの経験を元に、日々我が子を目の前に奮闘されているお母さん、お父さんが少しでも子育てのヒントにしていただけるようなお話ができればと思っています。
私は長年、子育てについての色々な相談に関わってきましたが、親御さんの相談やお悩みの中でとても多いのはやはり「子どもを叱る」ことについてです。今回は親御さんたちを悩ませる「叱る」ことの意味を考えてみたいと思います。
〇何のために叱るのか?
「叱る」とは本来、相手に対してアドバイスをしたり、注意をしたりするものと言われています。親御さんたちが子どもを叱る場面はどんな場面が多いでしょうか。
例えば、「赤信号で横断歩道を渡ろうとした」、「お友達のおもちゃを勝手に取った」、「電車の座席に靴のまま上がった」など、危ないことや他人に迷惑が掛かること、間違って覚えてほしくないことをしたような場合が多いのではないかと思います。
このように子どもを叱る場面の多くは、子どもたちが社会の中で生きていくために、将来の自立のために、大切なこと・必要なことを教えているはずです。
〇「叱る」ことになぜストレスを感じるのか?
子どもの育ちに大切なことをしているはずなのに、「叱る」ことに親御さんが悩み、ストレスを感じるのはどうしてでしょうか。
その原因の1つには「叱る」という行為は、結果的に相手や周囲との関係がぎくしゃくしてうまくいかなくなることの多い行為だからということがあると思います。子どものためにと一生懸命対応しているのに、叱ってもうまくいかず、より苛立ったり落ち込んだりするなど、叱ることで大人も振り回されてしまいます。
「叱る」と類似した「怒る」には本来感情をぶつけるという意味がありますが、子どもを叱るときは、大人も疲れている、余裕がないなどの状況であることが多く、感情的に叱ってしまう、つまり怒ってしまうことで、より罪悪感が生じやすいことも悩ましさの大きな要因でしょう。
〇「叱る」ことで効果はある?
強い口調や怖い表情で叱るほど、子どもはすぐに止めるという効果があることは誰しも経験があると思います。しかし、‘お母さん、お父さんが怒って怖いから止める’という止め方は、「怖い」という恐怖心で止めているのであって、「どうして止めないといけないのか」という理由が理解できて止めているわけではないのです。そのため、どうしても同じことを繰り返してしまうことになりがちです。
〇子どもの本音
かくいう私も親ですが、叱られたときにどう感じたか、我が子に尋ねたことがあります。その答えは、「怖かった」「何度も言われたのが嫌だった」「失敗したと落ち込んだ」等々。それらを聞いて落ち込みました。一生懸命子どものことを考えて叱っているはずなのに、子どもたちは不安になったり自信をなくしたりしているだけで、残念ながら親として伝えたかったことはほとんど伝わっていないと感じました。
○叱らない育児
最近「叱らない育児」という言葉も聞かれますが、大人も叱らなくてよいなら叱りたくなんてないですよね。ですが、叱らずに毎日の生活が回るはずもなく、社会の中で生きていくうえで大事なことを親以上に真剣に子どもたちに伝えてくれる人もそうはいません。
ですから、やはり子育てと「叱る」ことは切り離せません。「叱らない育児」という言葉も「ただ叱らない」ということではないようです。
「叱る」が避けられないのであれば、せめて少しでも罪悪感やストレスを減らしながら、お子さんの発達がサポートできるよう、次回は対応編についてお話したいと思います。
疋田 みわ 先生
(心理士・こども家庭局総合療育センター課長)
臨床心理士、公認心理師。神戸市では心理判定員を務める。2023年度より、神戸市総合療育センターの相談診療課長として、障害や発達の特性をもつ子どもの相談や療育指導に関することなど、子どもの発達相談支援施策に携わる。子どもの発達や子どもとの接し方などについてコラムを執筆予定。