2023年11月01日

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 この時期は、新年度の疲れが少しずつ出てくる時期だと思います。私もその仲間の1人ですが、皆様はどうお過ごしでしょうか?

 精神療法の一つに「森田療法」(※1)という療法があります。今ある状態を「あるがまま」に受け止めて、不安をかき消す事はせず、不安を抱えている状態の自分を受け止めるという考え方です。

 最初、大学時代に精神医学を勉強した時には、「受け止めて何か状況が変わるのか」と、この考え方に対して腑に落ちない思いをしていたのですが、特に子育てをし始めてからは、「世の中にはどう頑張っても変えられないこともある」という現状を知りました。夜泣き、イヤイヤ期、思春期などの問題のほかに、コロナ禍という現実も含め、どうにもならない状況も沢山あるのではないかと思います。
 一人の人間を育てるというのは、いろんな心配や悩みの繰り返しで、ニュースなどから聞く子供の事故などは恐怖を感じることも多いです。もちろん、事故が起きないようにしっかり子供を見ておくということは大切です。私自身も、「子育て四訓」(※2)と言われる教えにある「少年は手を離せ、目を離すな」という言葉をかみしめる毎日です。

 他のどうにもならない状況に対して「どうにかしたい、どうにか変えたい」と思って行動するのも一つですし、もう一つは「何もしないで事の成り行きを見守る」。それも正解ということです。「どうにもならない事をどうにかしよう」とするとエネルギーを沢山使いますし、それに疲れてしまう時もあります。そんな時には視点を変えてみてもいいかもしれません。子育ての不安を抱えている自分を受け入れてあげる。それだけで、見えてくる世界も変わったりします。限られた子育ての時間が楽しく過ごせるように、そんな風に考えるのも一つかもしれません。

※1 森田療法は、精神科医の森田正馬(1874~1938)によって創始された精神療法です。
※2 子育て四訓の出典は諸説ありますが、他に「乳児はしっかり、肌を離すな」「幼児は肌を離せ、手を離すな」「青年は目を離せ、心を離すな」という言葉があります。


※旧子育て応援サイト 2022年7月8日掲載分

井窪薫先生がお子さんと笑顔で映っている写真

井窪 薫 先生

(精神科医・4児の母)

精神保健指定医、産業医。4歳、2歳、1歳、0歳を子育て中。長女の子育て中に大学院に通い、医学博士、精神科専門医を習得。現在は兵庫県内で企業の産業医をしながら、精神科医の子育てアドバイスなどのセミナーも行っている。

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